所属

東京大学医学部 産婦人科学教室/Connected Industries株式会社 代表取締役

名前

園田 正樹

本文

本執筆の目的

病児保育の情報や予約管理にICTを使用する、広域受入を実現することで病児保育の世界がどのように変わりえるかを知っていただき、自施設のみならず、他施設のスタッフや市町村の担当者とICT化や広域受入について議論いただけるような行動変容を促すことである。

ICT化の目的

病児保育の推進に大切なことは「子ども・保護者にとって利用しやすい仕組みの実現」であり、ICT化は利便性の向上に寄与する。わたしが代表を務めるConnected Industries株式会社(以後、弊社とする)で実施したアンケート結果を引用する。小学6年生までの子どもを持つ就労女性300人の全国調査では、病児保育の利用経験がある方は12%に止まり、残りの88%は1回も利用経験がないという回答であった。利用経験のない方の42%が、病児保育を利用しない理由(複数回答可)として、「手続きの煩雑性」と回答した。

ICT化のツール紹介

病児保育で使用される代表的なツールは「予約システム」である。2000年以前より使用されていたものとして「メール予約システム」がある。夜間も予約ができるため、電話予約と比較して優れた点が多いが、利便性が高いとは言い難い。その後、病児保育に特化したシステムの中で最も古くからある予約システムに「ドクターキューブ」がある。診療予約システムの提供企業が開発しており、診療予約との連携が強みだ。その他、自治体導入の実績があるNCS社の「病児保育予約システム」は、疾患の割付機能がある点が強みとなっている。弊社では「病児保育支援システム あずかるこちゃん」を提供している。LINEから利用できるなど保護者が使いやすく、自動予約確定せずに施設側で受け入れの判断を手動でできるため、施設の持つネット予約への不安を解消している点が強みだ。その他、病児保育の予約システムではなく、無料のツールを活用している施設もある。「Googleフォーム」から予約を受け付け、スタッフがその情報を元に受入可否を判断したり、「LINE」で保護者からの予約申込に対応する施設があり、興味深い。GoogleフォームやLINEなどで個人情報を取り扱う際には、サービスの利用規約やプライバシーポリシーを確認すべきであり、施設から保護者に対する個人情報の取り扱い方針を示すことが望ましい。

予約機能を持たず、空き状況のみを示すシステムとしては、自治体からの受託開発によって作られたシステムが散見される。具体的には、山梨県、富山県、米子市の自治体サイト、あるいは子育てポータルだ。米子市の空き状況の見える化ページでは、部屋ごとにお預かりの疾患名と空き状況を表示しており、より病児保育の現状に即した空き状況のシステムとなっている。空き状況のシステムは、保護者にとって大切な「利用できそうであるか否か」の目安を提示できるため、大きな意義を持つが、施設スタッフの入力負荷をどこまで低減できるかが重要だ。理想としては、ネット予約と空き状況の見える化が連携しているシステムが望ましい。その他、「Twitter」や「Facebook」などのSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)を通じて空き状況を情報発信している施設も存在する。

2021年10月から大分県内すべての病児・病後児保育室の空き状況が「あずかるこちゃん」を通じて見える化され、うち6割の施設はネット予約と連動される。都道府県単位で空き状況の見える化とネット予約が紐づくシステムの運用は全国初だ。どのような便益が保護者側、施設側に提供できるか追って報告する。

ICT化で期待されること

各ツールによって、ユーザビリティ(ウェブサイトやツールなどの操作性や使いやすさを示す言葉)が大きく異なるため、詳細は各ツールの説明資料に譲る。ここでは、今後期待される理想的なフローについて述べる(図1)。なお、紙書類を削除することは「非接触」による感染予防に寄与する。

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  1. 情報収集

    保護者にとって、施設の概要や特徴を理解しやすいウェブページが重要となる。ウェブページへの誘導としてリーフレットやポスターを保育園など子育て世代への周知が効果的な場所や施設に配布することは効果が大きい。

  2. 利用登録

    現状は、ウェブサイトから保護者が用紙を印刷し、手書きし、持参や郵送していることが多い。今後は、スマートフォンなどから利用登録ができ、複数施設を登録する場合も以前の入力内容が引き継がれることで、最小限の入力となるように負担を軽減する。

  3. 空き状況の見える化

    施設の部屋ごとのお預かり疾患と空き状況が見える化される。ネット予約と連携することでリアルタイムに情報が更新され、スタッフが空き状況に関する情報入力が不要となる。

  4. 予約申込

    保護者のスマートフォンからいつでも予約申込ができる。自動予約確定を希望される施設の場合には、自動で部屋割りし、確定できる状況では即時予約確定する。自動予約確定を希望しない施設の場合には、施設スタッフが(例えば、前日の夕方と当日朝の2回)情報を確認し、受け入れ可否を判断する。